高田吉孝のブログ

不動産相続ビジネス市場における問題点

先月末に発行されました週刊住宅新聞の9月29日号に寄稿した文章を全文掲載させていただきます。

週刊エコノミスト7月29日号、週刊ダイヤモンド9月13日号に続き今回は、週刊住宅さんから寄稿文の依頼がありましたので、協力させていただきました。

今回は、週刊住宅さんの『不動産相続ビジネス特集』の中で、不動産相続ビジネスが過熱する中での注意点をまとめさせていただいたものですが、ビジネス誌などでも来年からの相続税の増税(基礎控除額の引き下げと税率構造の変更)を目前に”相続”を特集にしたものがかなり増えました。

 相続税増税の記事に読者も飽きてきた感もあり、最近は相続対策における注意点など、いきすぎた相続対策に警鐘を鳴らす主旨での取材記事の要請も増えてきたように思います。

週刊住宅20140929寄稿文

週刊住宅2014年9月29日号寄稿文全文掲載

 来年から始まる相続税の課税強化(基礎控除引下げ及び最高税率引上げ)に向け、建築・不動産関係業者などによる「不動産を用いた相続対策ビジネス(以下、“不動産相続ビジネス”と書く)」が活況を呈している。ビジネス誌各社が相続特集を頻繁に発行し『相続税の増税』を過剰に取り上げているように『相続対策』への関心は高まっている。

 相続税額としては、そこまで必要のない人が借入での不動産購入を勧められたり、無謀な資金計画でアパートの建築提案を受けているケースも多く見られる。判断がつかず弊社に相談に来られる方は氷山の一角であろう。

 そこで今回は「不動産相続ビジネス市場における問題点」を中心に述べさせていただく。
 相続対策において「不動産」は欠かせない、というよりも、「簡単に大きな相続税の節税効果が得られるものは今や“不動産”だけと言っても過言ではない」。そのため、相続対策ビジネスにおいては、税の専門家である税理士・公認会計士だけでなく、不動産を主なビジネスとする人たちが多く活躍し、積極的な営業活動を展開している。不動産を使った相続(税)対策の代表格と言えば賃貸住宅の建築であることは言うまでもない。

 総務省統計局発表の平成25年の全国の空き家数は820万戸であり、住宅のストックは既に十分ある中、日本の人口は減少しており、空室や家賃下落に苦しむオーナーも多い。にもかかわらず賃貸住宅の建築は止まらない。

 来年からの相続税の課税強化が影響しているのは間違いないが、それにも増して建築を増加させている要因は相続対策を口実にした積極的なセールスであり、それを後押ししているものは『サブリース(家賃保証)契約システム』だと考えられる。不動産の賃貸借におけるサブリース契約と言えば、不動産会社などが大家(オーナー)から建物を借り上げ、空室でも家賃を保証し、運営・管理を一手に引き受ける賃貸借契約(賃貸システム)の事を言う。

 サブリース契約は一定期間の空室は保証されるが、そこに家賃の下落を防ぐ効果はないのである。一般的には(会社よっては10年間の固定後)2年毎に家賃の見直しが出来る契約になっており、法的にサブリース会社にも賃料減額請求権は認められている。最近のほとんどの契約書は家賃の下落交渉などがまとまらない場合、サブリース会社からの契約を解除できるような内容になっている。そのため「30年一括借り上げ」などと言う謳い文句には何の保証もないのである。

 このような謳い文句で管理戸数を急激に増加させ、一時管理戸数でトップに迫った某社も、リーマンショック時の業績悪化(空室の増加)のしわ寄せをオーナーへの大幅家賃減額や一方的な契約解除という形で押付け、問題になったのは最近の話である。

先ほども述べたが、日本の人口は減少している。

(図1:首都圏の人口推計グラフ)

2010年〜2040年首都圏の人口推計(図1)

 図1は国立社会保障・人口問題研究所の最新データを元に2000年を100とした場合の各地の人口推移である。東京でも2020年以降は人口が減少して行く。

(図2〜3:年齢別人口構成推移グラフ)  
2015年首都圏の人口構成(図2)
2035年首都圏の人口構成(図3)
 図2〜図3は同データより、首都圏の年齢別の人口構成の推移を表したものである。例えば、2035年(20年後)の20歳〜24歳の首都圏の人口は、2015年の団塊ジュニアの中心世代(40歳〜44歳)の約半分にまで減少するのである。

 これだけ人口(賃貸住宅の需要層)が減少する中、30年間大幅な家賃の下落なしに空室を保証する事は非現実的である。

 だからと言って、土地の遊ばせておくわけにもいかないだろう。賃貸住宅市場は縮小するだろうが、需要がなくなるわけではない。

 「自己資金を半分以上用意する」など、入居者の獲得競争が激しくなる事を前提に事業計画を検討し、慎重な収支計画に基づいた資金(自己資金)計画を立てる事が重要なのである。しかし残念ながら、建築会社など提案する側(建てさせたい側)にそれ(慎重な事業計画)を求める事は、そもそも矛盾があることである。

 来年からの相続税の課税強化についてであるが、課税価格1億円の財産を保有している方(配偶者有り子供2人の場合)は、今年ならば相続税が100万円、来年以降は315万円と約3倍になる。税金が3倍となると確かに大増税だが、額にすると200万円である。その200万円の節税対策(実際にはもっと多くの相続税がかかると勘違いしている方が多い)のために、1億円規模の借入を行い、アパートを建築する方が多い。そのほとんどが、楽観的な収支計画を提示され、サブリースにより手間もかからず安定した収入を得ながら、かつ相続税も節税できると説明されているのである。

 アパート建築に限らず、不動産投資において、利回りが10%に満たない物件の場合、全額借入での資金計画では、家賃下落や修繕費負担、所得税負担などの影響により将来的にキャッシュフローが回らなくなる。
最近は、相続〇〇〇(例:相続プランナー)と言った民間資格を全面に出し相続の専門家を謳った、にわか専門家も多く、自社商品のセールスの為に相続対策を口実にしているケースが目立つ。

 不動産を使った相続税対策は、節税効果が大きい為、すこしかじっただけで簡単に提案できるが、注意すべき点も多く顧客の立場に立った本当に確かな不動産の目利きと豊富な税務(特に資産税)の知識と経験が必要である。だからと言って顧問税理士や公認会計士に相談すればよいかと言うと残念ながらそうとも言い切れない。 

 なぜならば、税理士は税金の専門家であるが不動産については専門家ではないからである。提携先の不動産業者などを紹介され不動産業者のペースになるケースも少なくはない。

 始めにも述べたとおり、不動産相続ビジネスは活況を呈しており、様々な提案者が活躍している。その提案が本当に自身にとって最善のものであるか?提案者が本当に信頼できるかどうか?を見極める事は非常に難しい。

 何億円もの借入など大きなリスクの可能性がある場合だけでなく、大きな決断を要する対策を実行する場合は、利害関係がなく公平な判断ができる豊富な経験によるセカンドオピニオンを求め判断することが重要である。




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